代理ミュンヒハウゼン症候群(MSbP)とは?自己愛性人格障害の特徴

代理ミュンヒハウゼン症候群(MSbP:Munchausen syndrome by proxy)とは、周囲の関心を自分に引くために、近親者の病気や怪我を捏造する精神疾患です。
自分の子供や要介護の親を傷害し、献身的に看病や介護をする自分を演じることで、承認欲求を満たすことが動機です。
また、医療従事者が患者を傷害し、自ら治療行為をすることで、賞賛を得ようとするケースもあります。
不必要な医療行為を故意に受けさせることは、医療乱用虐待(MCA)と呼ばれます。
代理ミュンヒハウゼン症候群は、母親が自身の子供をターゲットにするケースが圧倒的に多いです。

現在、4人の子供が連続的に不審死した事件で、母親が逮捕され、代理ミュンヒハウゼン症候群であることが疑われています。
2019年、神奈川県大和市の自宅で次男(当時7歳)を窒息死したとして母親が逮捕され、2017年に三男(当時1歳)を窒息死させた容疑で再逮捕されました。
2002年には長男(生後5カ月)が、2003年には長女(生後2カ月)が、母親と2人きりでいる時に死亡しており、警察が捜査を進めています。

過去に起きた事件では、京大病院点滴異物混入事件が有名でしょう。
2008年、京都大学医学部附属病院の病室内で、母親が五女(当時1歳)の点滴に異物を混入して、殺人未遂容疑で逮捕されました。さらに、この母親は、過去に三女と四女にも同様のことをして死亡させたことが明らかになり、再逮捕されました。
厚生労働省の平成20年度の統計によれば、1年間に虐待死した児童67人中3人(4.5%)が、代理ミュンヒハウゼン症候群により死亡しているとされています。

なぜ、自分の子供を病人にして自己満足を得るという、奇妙で卑劣な精神疾患が発生するのでしょうか?
代理ミュンヒハウゼン症候群は、自己愛性人格障害NPD自己愛性パーソナリティ障害)との関係が深いと考えられます。
自己愛性人格障害の代表的な症状に、承認欲求、共感力欠如、支配欲があります。
これらの症状は、代理ミュンヒハウゼン症候群のメカニズムの主要因です。
つまり、代理ミュンヒハウゼン症候群は、自己愛性人格障害の二次障害だと考えることができます。

【目次・】

それぞれの要因について、解説していきたいと思います。

承認欲求

代理ミュンヒハウゼン症候群の動機は、自己肯定感を満たしたいという、承認欲求です。
代理ミュンヒハウゼン症候群のポイントは、自分自身が苦しむことなく、簡単に周囲の同情を引くことができるということです。
周囲の同情を引くために、自分の病気や怪我を捏造するミュンヒハウゼン症候群は、自分自身に苦しみや不自由が伴います。
しかし、代理ミュンヒハウゼン症候群は、病人や怪我人の役を近親者に代理させることで、自分が苦しむ必要がなくなります。
さらに、近親者の不幸という同情だけでなく、自分の熱心な看病や介護をアピールして、賞賛を得ることもできるのです。

母親が子供をターゲットにする場合は、周囲に「良い母親」だと認識されることを目的としています。
海外では、代理ミュンヒハウゼン症候群の母親が「難病と闘う子供と、献身的な母親」として、メディアで紹介されていたケースもあります(その後逮捕)。
代理ミュンヒハウゼン症候群は、承認欲求依存症ともいえるでしょう。
承認欲求を満たし続けるために、子供を体調不良にして何度も入院させる、重い症状を作り出し長期間入院させるといった行動をとります。
子供が死んでしまうと、別の子供をターゲットとするため、連続的に被害者が出てしまうケースも多いです。

代理ミュンヒハウゼン症候群の異常な承認欲求は、自己愛性人格障害によるものと考えられます。
承認欲求の高さは、自己愛性人格障害特有の症状なのです。
そのため、代理ミュンヒハウゼン症候群は、自己愛性人格障害の二次障害だといえるでしょう。
自己愛性人格障害は、治らない障害だと認識されています。
代理ミュンヒハウゼン症候群は再発率が極めて高いことが知られていますが、それは自己愛性人格障害がベースになっているからでしょう。

関連記事:「承認欲求とは?自己愛性人格障害の特徴」

共感力欠如

代理ミュンヒハウゼン症候群の特徴に、共感力の欠如があります。
共感力とは、他者の気持ちや状態を想像する能力のことです。
共感力が欠如していると、病気や怪我で苦しむ人を見ても、可愛そうだと感じません。
そのため、自分の承認欲求のために、他者に苦しみを与えるという異常な行動がとれるのです。

代理ミュンヒハウゼン症候群の母親は、子供に愛情を持っておらず、心配しているふりや、悲しんでいるふりをしているだけです。
健康体の子供が病院で治療行為を受けて、投薬される、体にメスが入れられるという事態になっても、心は全く動きません。
子供の入院頻度が多いほど、入院期間が長いほど、承認欲求が満たされるため、子供への傷害が繰り返され、エスカレートしていきます。
子供が死亡しても、悲しいという感情がなく、次の子供がターゲットとなり、同じことを繰り返します。
「子供を病気にすることで同情と賞賛を得る」というスキームを回すことしか頭になく、自分が児童虐待や殺人をしているという自覚すらありません。

自己愛性人格障害の代表的な症状に、共感力の欠如があります。
自己愛性人格障害による共感力欠如が、代理ミュンヒハウゼン症候群の冷酷さを生み出していると考えられます。

関連記事:「共感力の欠如とは?自己愛性人格障害の特徴」

支配欲

代理ミュンヒハウゼン症候群には、歪んだ支配欲も見られます。
立場の弱い子供や要介護の親が、代理ミュンヒハウゼン症候群のターゲットとなります。
自分の支配下にある人間を所有物として認識し、何をしてもいいと考えています。
そのため、周囲の同情を引くためだけに、病人や怪我人にするという、非人間的な行動がとれるのです。
ターゲットを自分の思い通りにすることにも、隠れた自己満足があり、副次的な動機にもなります。
人を自分の意のままに病気にするというのは、ある意味、究極の支配となる訳です。

代理ミュンヒハウゼン症候群の母親は、「子供は親の所有物」という価値観を持ちます。
子供を一人の人間として認めず、周囲の関心を引くための道具としか認識していないのです。
子供の病気や障害を偽造する方法として、毒物を飲ませる、点滴に異物を混入する、医者に嘘の症状を訴える、子供に病気や障害の演技をさせるといった方法がとられます。
また、身体的虐待によって、子供に大きな怪我をさせるケースもあります。
子供は親の行動や命令を拒否することが難しい、乳幼児だと抵抗すらできないという、力関係を利用するのです。
代理ミュンヒハウゼン症候群の母親は、病気の子供を持つ可哀想な母親と、子供にとっての絶大な支配者の二面性を都合よく使い分けます。
弱い自分として同情を集める満足感と、強い自分として力を濫用する満足感の両方を享受し、精神的なバランスをとっているのです。

自己愛性人格障害の症状の一つに、支配欲があげられます。
代理ミュンヒハウゼン症候群の子供の病気をコントロールするという行動は、自己愛性人格障害の支配欲によって誘因されていると考えられます。

まとめ

代理ミュンヒハウゼン症候群と自己愛性人格障害の関係について解説しました。
代理ミュンヒハウゼン症候群は、自己愛性人格障害の承認欲求、共感力欠如、支配欲によって引き起こされる二次障害と考えられます。
全ての自己愛性人格障害者が、代理ミュンヒハウゼン症候群になる訳ではありません。
しかし、代理ミュンヒハウゼン症候群患者の異常な行動と感覚は、自己愛性人格障害の危険性を示しています。
同情や賞賛を求めて演技的アピールをする人には、注意した方がいいでしょう。